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【研究発表】微生物も「急には止まれない」!? 物質工学科の島袋准教授が国際誌に論文発表

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2026.07.17

さて、いきなり質問です。 時速80kmで走っている車のエンジンが急にストップしたとします。何が起こるでしょうか?

簡単ですね。エンジンが止まっても、車は「慣性(かんせい)」という力がはたらくため、しばらく前に進み続けますよね。交通安全の標語でもよく耳にする「車は急には止まれない」というお話です。
では、もう一つ質問です。 0.1ミリメートルほどの小さな微生物が水の中を泳いでいたらどうでしょう。それが突然泳ぐのをやめたとき、この微生物はその場でピタッと止まるでしょうか。それとも車と同じように進み続けるでしょうか?

普段、想像したこともない疑問かもしれませんね。
実は、ほとんどの微生物は泳ぎをやめた瞬間に、その場で「ピタッ」と止まります。微生物のような小さい世界では、まわりの水の粘り気がとても強く、勢い(慣性)で前に進むことができないからです。微生物の泳ぎを考えたとき、私たちは日常とはまったく違う、不思議な物理の世界に行くことになります。
でも、もしその微生物の体が大きかったら……? 世界中の科学者がこれまで考えてきたものの、実験で確かめることが難しかった疑問に、今回の研究は答えを出しました。

世界初!微生物の「ゴツン!」を測る

物質工学科の島袋勝弥准教授らの研究グループは、生きた微生物がものにぶつかる瞬間の「小さな勢い(衝突力)」を直接測定することに成功しました。その結果、微生物が大型化すると勢いが無視できない程度に大きくなることを明らかにしました。

図1:光テコ方式による実験方法と、体の大きさによる衝撃力の違い

実験には「光テコ方式」という技術を使いました(図1・左)。水槽の中を泳ぐ微生物が、本当に小さな板バネに衝突すると、板バネがほんの少しだけ「たわみます」。そこにレーザー光を当てて、跳ね返ってくる光の位置の変化を精密に追いかけることで、微生物がどれくらいの勢いでぶつかったかを測ったのです。まさに、微生物の「ゴツン!」を世界で初めて正確に記録した実験でした。

体が大きくなると、環境が変わる

これまでの科学では、微生物の世界において「体の重さによる勢い」と「水の粘り気によるブレーキ」の関係は、サイズによって厳密に区別して調べられてきませんでした。

図2:光を受けたときのブレーキ方法の違い(停止と逆転)

ここで、今回の実験材料である「ボルボックス」について少し説明します(図2)。ボルボックスは、淡水にすむ丸い形をした緑色の藻(も)の仲間です。面白いことに、数百〜数千個の細胞が集まって一つの体を形作りながら泳いでおり、種(種類)によって細胞数が違い、したがってサイズが異なります。

島袋准教授らがこの細胞数やサイズが異なるボルボックスで実験をしたところ、標準的なサイズのボルボックス(ボルボックス・カルテリ)では衝突時に泳ぐ力の周期的な変化(脈動)が見られるだけで「スッ」と受け流されたのに対し、直径約0.8ミリメートルの「大きなボルボックス(ボルボックス・フェリシー)」では、衝突した瞬間にグッと強い衝撃の信号(慣性衝突力)が検出されました(図1・右)。

つまり、微生物であっても進化の過程で体が大きくなると、もう「勢い」を無視できない環境に変わっていくことが、実験によってはっきりと示されたのです。

解き明かされた「ブレーキ」の謎

実は以前から、大きなボルボックスは強い光の刺激を受けると、繊毛(細胞の表面の毛)の動きを逆転させて、進行方向に対して逆の流れを起こすという不思議なブレーキ行動(逆転反応)をすることが知られていました(図2・下)。しかし、なぜわざわざそんなことをするのか、明確な説明はありませんでした。

今回の実験で、その謎が解けました。 大きなボルボックスは、自分の体が重いため、ただ繊毛を止めるだけでは車のようにズルズルと進んでしまい、急には止まれない環境に生きています。だからこそ、自分から一生懸命、水流を逆転させる「繊毛ブレーキ」をかける必要があったのです。

「なぜそんな行動をするのか」という生物の謎が、力の測定という物理的なアプローチによって結びついた瞬間でした。

宇部高専の最先端研究

顕微鏡で覗く小さな命の背景には、厳しい自然を生き抜くために進化した、水の中の不思議な力学の世界が広がっていました。

今回の成果は、国際学術誌『Physical Review Research』に掲載されました。宇部高専の物質工学科では、生物学と物理学の枠組みを超えた最先端の研究にも取り組んでいます。中学生のみなさんも、私たちと一緒に「見えない世界の謎」を解き明かしてみませんか?

※本研究は、常葉大学の三留規誉教授、法政大学の植木紀子教授、京都産業大学の若林憲一教授らとの共同研究による成果です。

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