独立行政法人国立高等専門学校機構 宇部工業高等専門学校

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目的別

vol.1 碇 智徳 教授

Tomonori Ikari

vol.1 碇 智徳


電気工学科 教授

 

 

学位 博士(工学)
専門分野 表面材料 表面吸着 電子分光

二次元デバイス(表面)の可能性

二次元デバイスへ向けた表面の研究

最近の家電製品はたくさんの機能を備え、多くの人々の要求を満たせるように作られています。さらに、人々が抵抗なくストレスなく操作できるような工夫がされており、生活を豊かにしてくれます。こういった機能性や利便性に優れた製品の多くには、それらの動作を生みだすデバイスという小さな素子が入っています。実は、この素子の性能の向上が、家電製品の急激な進歩を支えています。この素子は電気の流れを制御するトランジスタやダイオードと呼ばれるもので、これらを集積して電子回路を構成したものをICやLSIといいます。現在のICやLSIの代表的な材料として、半導体であるシリコンが用いられています。このシリコンに電気の流れを作るために金属の電極をつけたり、シリコン以外の物質を混入したりします。つまり、これらの素子の性能を向上させるためには、半導体や金属などの材料(物質)の研究が必要で、この分野の発展が深く関係しています。さらに、デバイス分野では急激に小型化・集積化が進んでいます。その結果、高速動作や記憶容量の大規模化を可能にしています。実際に50年前にトランジスタラジオが作られた頃から、一つの回路が一億分の一以下まで小さくなっています。しかし、この小型化・集積化には良いことばかりではありません。当然ながら、デバイスを動作させる上で、従来の電気・磁気量では素子の誤動作や破損と言った問題点が浮上してきます。電気や磁気は電子の流れで発生するため、この問題をクリアするには、素子に流れる電子量を低減するか耐久性を向上させなければなりません。以上のことから、素子に用いられる新素材の開拓や材料加工技術を開発する必要があります。そのため、「ナノテクノロジー」が非常に注目されています。

「ナノテクノロジー」とは、極めて小さな分子や原子を自在に制御することにより、期待される機能及び性質を示す材料を作成する技術のことです。「ナノ」とは十億分の一メートルを表す単位のことで、物質を構成する分子や原子程度の大きさに相当します。現在のデバイスは、材料をマイクロまたはナノメートルスケールで加工し、縦×横×深さの三次元のブロックを積み上げたような構造をしています。この構造の内部(バルク)の特徴を利用して電気的な性質が決まります。将来的には、さらに素子のサイズが小さくなった場合に二次元或いは一次元といった低次元化が予想されます。

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図1サイズによる表面上の原子数

ここで、二次元つまり「表面」について考えてみましょう。三次元による性質を利用した技術は建築物や機器等で予想がしやすいでしょうが、「表面」という二次元における性質を利用した技術はどうでしょう?身近なところで言うと、鏡による光の反射や刃物による切断等が挙げられます。ある物が規則正しく並んだ原子で構成されているとして、そのサイズを小さくしていくことは、表面にいる原子の数が増えることが分かります(図1)。つまり、小さくすればするほど二次元的な表面の特徴がその物の性質に効いてくることを示しています。さらに、固体内部にいる原子は周囲にいる原子と結合している状態に対して、表面にいる原子は二次元的な横方向と内部への下方向しか結合しておらず、固体内部とは異なった状態をとります。そのため、一つの物を同じ原子で構成されているとしても、固体内部で持っていた性質と表面における性質とでは異なってしまう可能性があります。これらのことからも、小型化・集積化した際にデバイスとして機能するための材料表面の結合状態や構造などについて、正確な情報を掴む必要があります。


表面を視る(測る)技術

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真空装置と一緒に

材料は、突き詰めていくと分子や原子で構成されています。一昔前までは、これらの世界を視ることができるとは思いもしなかったことでしょう。しかし、走査トンネル顕微鏡(STM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの登場によって、ナノまたはアトムスケールの世界を観察する事が出来るようになりました。さらに、X線や電子線を用いることで表面上にどんな原子や分子が存在しているのかをある程度測ることができるようになりました。その結果、どんな原子がどんな結合状態でどんな構造をしているのかを知ることができ、原子や分子を操作或いは制御することができるようになってきました。良いことばかりを述べていますが、実はこれらの原子の情報を得るためには、特殊な環境下における材料の製作と測定が必須になります。原子や分子の挙動を視なければならない訳ですから、埃や塵などの余分なものがあると正確な情報を得ることができません。さらに、金属のような活性な表面であれば酸化やさびなどの外的要因を受けやすいため、安定的に表面の構造が変わらない環境下を準備する必要があります。ある空間において酸素や窒素などの原子が非常に少ない環境、つまり、真空状態です。「真空」と言えば、宇宙をイメージすることと思います。私の研究室では、宇宙のような超高真空の環境を準備し、その中で表面を視る(測る)ことのできるシステム作りをしています。


カーボン系薄膜表面のつくる未来

最近では、省エネルギー化といった観点からカーボン(炭素)系材料が注目を集めています。炭素原子は原子間で共有結合という非常に強い結びつきをし、材料の作成方法や条件によって異なる形態をとります。例えば、柔軟で引っ張りにも強い「グラファイト」やグラファイトのシートを巻いたような構造で巻き方によって異なる電気的な性質を持つ「カーボンナノチューブ」や非常に硬く異なる材料にコーティングすることによって特殊な電気的な性質を生む「ダイヤモンド」などといった材料です。このように、炭素原子のみで形成されている材料でも、基本的には電気的・機械的に非常に優れているという特徴に併せて、構造によって生み出される性質は異なったものになります。そのため、用途としては、ディスプレイの電子放出源であったり、エネルギー貯蔵デバイスの電極であったり、ベアリングであったりと様々です。

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図2 炭素材料の形態

その中でも、私の研究室では、二次元的な炭素原子の結合で形成された層である「グラフェン」に注目しています。グラフェンは、結合している二次元方向に対しては非常に優れた電気伝導を持っていますが、深さ方向の層間に対しては絶縁的な性質を示します。このグラフェンに傾きをつけることで半導体的な性質を付加できることが報告されていることから、グラフェン層間に異種原子を混入することで構造の変化を促すこととデバイスプロセスにおいて問題となっている酸化膜の形成メカニズムの解明を行っています。これらのことを実現できれば、究極はグラフェンという1枚のシートの上に半導体や導体(金属電極)や絶縁体(酸化膜)といった機能を持たせた局所的な領域を作ることができ、自在に制御することができれば、デバイスの小型化・集積化のみならず飛躍的な性能向上を図ることが出来ます。以上のことから、材料(物質)の性質を解明し応用していくと言うことは、未来の様々なテクノロジーの発展を促し、明るく豊かな生活への貢献を目指しています。


表面との出会い

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研究室の学生たちとともに

私はバレーボールやバンド活動と多趣味にもかかわらず不器用だったため、自分のできる範囲内で何事にも全力投球してきました。そのため、勉強は得意な方ではなかったですが、大学4年生の時にこれまでのことを取り戻すべく、研究には一生懸命取り組もうと心に決めました。どんな研究をしようか悩んでいましたが、せっかくなら比較的新しい分野で興味が持てそうなところを選ぼうと考えました。そんな時に、「表面」という研究に出会いました。小さい頃から、戦隊もののヒーローやロボット系のアニメが好きで、「宇宙」にロマンを感じ、「~テクノロジー」や「~エレクトロニクス」という言葉の響きに胸を躍らせていましたので、「超高真空」や「デバイス」という言葉を耳にしたときに自然と足が進んでいました。しかし、この分野を研究するためには、こんな科目を勉強する必要があると言われた科目は、軒並み単位が取れていませんでした。一抹の不安は覚えましたが、一歩踏み出さなければ手の届くところまでもいけないし、手を伸ばさなければ掴み取ることができないことは分かっていたので、飛び込むことにしました。様々なチャレンジをする際に思い悩むことや苦しいことは多分にありますが、幸い私は良い「師」に御指導頂き、良い「友」に支えられたおかげで、これまで楽しくやって来ることができました。高専では5年間を同じキャンパスで同じ仲間たちと過ごします。勉強だけではなく、卒業研究やインターンシップや海外研修やクラブ活動と様々なチャレンジをする機会も豊富です。私もそうであったように充実した学生生活を過ごすためには、良い「師」と良い「友」との出会いも必要です。多くのチャンスをつかんで、世界で戦えるような技術者になれるように応援しています。

現在までの経歴

2005年 九州工業大学大学院 博士後期課程 工学研究科 電気工学専攻 修了
2005年 九州工業大学工学部電気工学科 科学研究支援員
2006年 宇部工業高等専門学校 電気工学科 助手
2007年 宇部工業高等専門学校 電気工学科 助教
2009年 平成20年度国立高等専門学校機構在外研究員(Technische Universität Ilmenau, Technische Universität Clausthal:ドイツ)
2009年 宇部工業高等専門学校 電気工学科 准教授

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