独立行政法人国立高等専門学校機構 宇部工業高等専門学校

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目的別

vol.3 德永 仁夫 准教授

Hitoo Tokunaga

vol.3 德永 仁夫


機械工学科 准教授

 

 

学位 博士(工学)
専門分野 材料学 材料強度学

新しい材料、新しい技術、新しい時代、創成へチャレンジ

スマート材料としての形状記憶合金

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熱分析実験

環境(温度、光、磁場など)の変化を感知して、まるで意思を持つかのように特性を変化させる材料をスマート材料(知的材料)と呼びます。私はこのスマート材料の中でも形状記憶合金(Shape Memory Alloy、以下SMAと省略)に関する研究を行っています。

SMAとは読んで字のごとく形を覚えている金属であり、見かけ上の塑性変形を生じてもある温度まで加熱することで元の形状に戻るという特性(形状記憶特性)を有しています。もちろん、どのような金属でもこの特性を備えているわけではなく、材料を構成する元素の種類と割合、結晶構造などの必要条件を満足した材料がこの特性を備えます。代表的なSMAはチタン(Ti)とニッケル(Ni)を原子比1:1近傍で合金化させたTi-Ni SMAです。


Ti-Ni SMAの特徴と応用、課題

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図1 Ti-Ni SMAにおける形状回復が生じる温度と合金組成(Ni濃度)の関係。温度センサー、アクチュエータ機能を活用した応用例。(参考文献:形状記憶合金の応用展開,CNCテクニカルライブラリー)

Ti-Ni SMAは機械的性質や形状記憶特性、耐食性などの諸性質において優れるだけでなく、形状回復が生じる温度を比較的広範囲にコントロールできるという長所を持っています。具体的には、図1に示すように、TiとNiの割合によって形状回復が生じる温度をコントロールできます。

このTi-Ni SMAの形状記憶特性は、温度を感知するセンサー(温度センサー)や物を動かす駆動装置(アクチュエータ)として活用されています。一例として、図2に炊飯器などに使用される感温バルブの機構を示します。

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図2 図2 SMA感温バルブの駆動原理。(a)室温状態:[バイアスバネの力]>[SMAバネの力]。バルブは閉じた状態。(b)高温状態:[バイアスバネの力]<[SMAバネの力]。バルブは開いた状態。

図2(a)はSMAバネの温度が室温付近の場合であり、バイアスバネがピンを押し下げる力の方がSMAバネの反発力よりも大きいため、バルブは閉じた状態になります。一方、図2(b)は水が沸騰し水蒸気が発生した状態であり、水蒸気によってSMAバネは加熱され、SMAバネは元の形状(バネが伸びた状態)に戻ります。その結果バルブは開き、発生した水蒸気は外部に排出されます。このようにSMAは材料そのものが温度センサー、アクチュエータの機能を有しており、さらにこれを駆動させるために電源等を必要としません。そのため装置の小型化・軽量化、省エネルギーや安全性・信頼性の向上を実現できます。

一方で、図1に示すようにTi-Ni SMAでは形状回復が生じる温度が100℃未満の温度域に限られ、その機能を100℃超の高温域では活用できないという課題があります。したがって100℃を超える温度域で駆動するSMAを開発することは、SMAの優れた機能を活用できる範囲を拡大し、新しい科学技術を創成すると期待されています。


研究紹介

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図3 Zr-(50-x)Cu–xAl合金における形状回復が生じる温度(As、Af)とAl濃度xの関係

私が注目しているのは、ジルコニウム(Zr)と銅(Cu)の合金です。この材料もTi-Ni SMAと同様に形状記憶効果を発現すること、さらにその温度は200℃以上とTi-Ni SMAのそれよりも高温であることが知られておりますが、形状回復が生じる温度のコントロール方法、強度や変形能力、形状回復を繰り返した場合の挙動など不明な点も多く存在しています。これまでの研究で、Zr-Cu合金中のCuの一部をアルミニウム(Al)に置換することで形状回復温度を制御できる可能性が示されております(図3)。現在は、この材料の形状記憶特性や材料強度、微細組織におよぼすAl濃度の影響に関する研究を進めています。


失敗は成功の母

研究以外の活動、学校の様子を少し紹介します。

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図4 第1回3Dプリンタアイディアコンテスト(宮城県仙台市)

課外活動

高専機構主催のデジタルファブリケーション機器(3D-CAD、3Dプリンタなど)を使用したデザインコンテストなどへの学生の参加を積極的に支援しています。図4は宮城県仙台市で開催された3Dプリンタアイディアコンテストのひとコマです。

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図5 研究・学業の合間に草サッカー

運動

新しい発想を生むためには研究以外の活動も必要なので、学生達と草サッカーに汗を流したりもしています。前回は、学生が優勝トロフィーを3Dプリンタで作製してくれました。

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図6 ペレットストーブ
(左)学生がデザインしたペレットストーブモデル
(右)常盤公園ときわミュージアムに設置されたペレットストーブ

地域連携

地域企業からの依頼を受けて、ペレットストーブのデザインに学生と一緒に取り組みました。図6は3D-CADでデザインしたペレットストーブ(モデル)と常盤公園内ときわミュージアムに設置されているペレットストーブ(実物)です。

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研究室の学生と

研究に限ったことではありませんが、予想や期待の通りに物事が進むこととはほとんどありません。しかし、「予想外、期待はずれの結果」は「使い物にならない失敗」ではなく、「新たな発想のヒント」や「未知の何か」を含んでいます。若いみなさんには、ぜひ「予想外、期待はずれ」をむやみに恐れることなく未知の領域にチャレンジして欲しいと強く思っています。幸運なことに高専には様々なチャレンジの機会があり、また宇部高専にはチャレンジ精神や行動力にあふれた学生が多く在籍しています。若人たちには、研究だけでなく学生時代だからこそできる様々なチャレンジによって大きく成長し、未来に羽ばたいて欲しいと願っております。

現在までの経歴

2006年 宮崎大学大学院工学研究科システム工学専攻 博士後期過程 修了
2006年 宇部工業高等専門学校 機械工学科 助手
2007年 宇部工業高等専門学校 機械工学科 助教
2009年 宇部工業高等専門学校 機械工学科 准教授

※2015年11月現在

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