vol.7 南野 郁夫
機械工学科 教授
学位 博士(工学)
専門分野 太陽光発電、制御工学
太陽光発電の健全な普及のための研究と教育
太陽光発電はメンテナンスフリーか?
太陽電池アレイ(宇部高専校舎屋上)
メンテナンスフリーと思われてきた太陽光発電システム(PVシステム)にメンテナンスや状態監視の必要性が認識されつつあります。PVシステムが広く普及するまでは、太陽電池の効率や太陽電池モジュールの寿命、単独運転防止、太陽光発電システムの低コスト化等に注目が集まっていました。しかし、これまでアメリカやヨーロッパだけの問題と思われていた火災や消防士感電の問題が、PVシステムの国内普及とともに国内でも報告されてきています。このように、太陽光発電がメンテナンスフリーでないことが明らかになってきました。
しかし、太陽光発電システムは、人類にとって非常に重要なエネルギー源であり、人々の安心安全を守り、PVシステムの健全な普及を推し進めるために、南野研究室はPVシステムの状態監視やメンテナンス、自動切替手段等の研究を行っています。
部分陰問題とは?
研究室の学生と部分陰実験
監視する状態には安全性と効率の2つの観点が重要です。安全性と効率に関係する状態は種々ありますが、その両方に関係する現象に「部分陰」があります。一般家庭の屋根1軒分の約5kWの太陽電池モジュール(太陽電池アレイと呼びます)の一部分が陰になると陰の面積以上の効率低下や安全性劣化を引き起こします。この部分陰による効率と安全性に与える問題が部分陰問題です。
この効率低下の対策にはマイクロインバータやDC/DCコンバータなどの変換器、MPPT等の方法がありますが、課題もあります。安全対策には海外メーカから直流のアーク放電を検出する装置が開発されていますが、部分陰に対する安全対策はまだ見かけません。
宇部高専では複数の研究室がこの部分陰問題に注目した研究を行っています。南野研究室では、太陽光発電の安全性と効率に関する部分陰問題(高温のホットスポット生成など)のメカニズム解明や電磁リレー応用による対策の研究を行っています。これらの研究を現実の環境で行うために設置した太陽光発電の実験システムを次に紹介します。
世界初の太陽光発電実験システムとは?
2014年2月、文科省の補正予算で宇部高専の校舎屋上の太陽電池アレイと実験室の計測器をケーブルでつなぐ「太陽光発電効率評価システム」という実験システムを設置しました。本システムの目的は、第一に部分陰が安全性と効率に与える影響とメカニズムを詳しく調べ、本質原因を探ることです。第二に陰問題の対策技術の評価です。第三に先端研究による学生への実践的教育です。本教育では社会に潜む重大な技術課題を分析・対策するアプローチを学生に実際に体験させ、社会で活躍するための高度で実践的な能力を育成することです。次にこの太陽光発電効率評価システムの主な特徴を7つ挙げます。
【特徴】
- どのPVモジュールにも陰シートを容易に設置可
- モジュールの接続をジャンパー線で容易に変更可
- Webカメラで1Fから屋上の陰をモニタ可
- アレイとモジュールのI-V特性を同時に計測可
- 模擬太陽電池による再現I-V特性をPCS入力可
- 同一陰条件の2台PCS出力電力の比較可
- 逆流防止リレーのデータ計測可
これらの特徴を詳しく説明します。アレイ内のどのモジュールにも部分陰を作り易いように、モジュール間には10cmの隙間を設け、図1のように人が陰シートを設置し易い傾斜10度を選択しています(特徴1)。
図1.部分陰の実験を行っている太陽電池アレイ
また部分陰対策を実験するために、モジュールの直並列接続や組合せを自由に変更し実験できる図2の直並列変更パネルが有ります。これは宇部高専が独自の仕様をメーカに提示し、特別に注文し世界初の設計を行ってもらったものです(特徴2)。
図2.モジュール直並列変更パネル
Webカメラにより屋上の様子を1Fの実験室からリアルタイムで観測でき、部分陰の画像を記録することもできます(特徴3)。さらに電子負荷方式によりアレイ全体のI-V特性を計測すると同時に、全モジュールのI-V特性も計測できるようにしています(特徴4)。計測したI-Vカーブを模擬太陽電池に転送し、その特性で系統連系したパワーコンディショナ(PCSと呼ぶ)を運転させることもできます(特徴5)。複数台のPCSはアレイ切替盤により太陽電池アレイとの組合せを変更でき、同一の部分陰の条件でのPCSの出力比較が行えます(特徴6)。また私が電子機器メーカ勤務中に発明し、日本太陽エネルギー学会の優秀技術賞を受賞した「逆流防止リレー」のデータも計測しています(特徴7)。
太陽電池モジュール直並列変更パネルと南野教授
特徴2のモジュールの接続をパネル上のジャンパー線で容易に変更可能な点が世界初であるので、世界初の太陽光発電実験システムと言えます。
優秀な社会人とは?
私は約30年間会社員として働いてきました。オムロン㈱の経営基幹職である専門職まで勤め、受賞6件(全社表彰2件、学会表彰4件)、特許262件(国内外登録公開番号合計)の成果を残しました。この経験から優秀な社会人とは、「信頼」と「本質」に尽きると感じており、研究室の学生にもそのように指導しています。研究室の白板には、以下のように記載しており、ことあるごとに言っています。これも南野研究室出身の学生が社会で活躍し、幸せになってもらいたいからです。
優秀な社会人 | 困った社会人 | |
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1 | 人に役立つ人 | 人に迷惑をかける人 |
2 | 「信頼」できる人 | 勝手な行動をする人 |
3 | 「本質」追求する人 | 形だけを取り繕う人 |
それぞれのポイントを一言でいうと、
- 志
- 報連相
- 真摯な態度
まず日本人の心の底には、人の役に立ちたい気持ちがあると思います。その証拠に熊本地震などの震災で多くのボランティアが参加しています。その気持ちを明治維新の長州では「志」と呼んでいました。逆に人に迷惑をかける人も残念ながら存在します。
つぎに信頼できる人とは、約束することから逃げずにリーダーの立場を理解した上で約束し、目標と計画を示し、想定外のことが起きれば挽回可能な時期に早め早めにリーダーに報告・連絡・相談する人です。報・連・相によって信頼関係は築かれます。信頼された社会人には上司から重要な仕事が任せられ、自然と活躍のチャンスが得られます。逆に、上司に報連相無く勝手な行動をする部下は、チームワークを乱し企業の中では非常に困った人だと見なされます。企業人としては失格です。
さらに技術者は多くの技術的課題に直面します。そのようなときに近視眼的な対策ではなく、真の原因を追究し、問題の本質に対し対策しようとする本物志向の技術者は良い成果を残します。心の中に「形だけ取り繕って逃げ切ろう」と囁く偽物志向の自分が居ます。そんな弱い自分に打ち勝ち、忙しく苦しい中でも真摯な態度をどれだけ保てるかが技術者の真価を決めるもの、ある意味陰徳を積むことに似ています。現実には全ての課題を完璧に対処することは困難です。本当に重要なことに対し、この態度が必要であり、その取捨選択ができてこそ、優秀な技術者だと言えます。
研究室の学生と
私は南野研究室の学生と、研究活動を通してこのような優秀な技術者になるための基本的な心構えをアドバイスし、優秀な社会人を輩出し続けたいと願いながら、人類に役立つと信じている太陽光発電の安全と効率を研究しています。研究を熱心に取り組んでくれた専攻科生や卒業研究生は、研究成果を国内学会の研究発表会や国際会議で発表しています。大学生の発表に負けず劣らない堂々とした発表を見て、私はいつも彼らを誇らしく思っています。
現在までの経歴
1982年 | 広島大学工学部Ⅱ類(電気系) 卒業 |
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1982年 | ㈱第二精工舎(現在のセイコーインスツル㈱) 入社 |
1989年 | 九州松下電器㈱ 入社 |
1991年 | オムロン㈱ 入社 |
1994年 | オムロン全社表彰功績特別賞 受賞 |
1997年 | 日本太陽エネルギー学会優秀技術賞 受賞 |
2003年 | オムロン全社表彰イノベーション特別賞 受賞 |
2003年 | 計測自動制御学会技術賞 受賞 |
2007年 | 熊本大学大学院自然科学研究科博士後期課程 修了 |
2012年 | 宇部工業高等専門学校機械工学科 教授 |