独立行政法人国立高等専門学校機構 宇部工業高等専門学校

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目的別

vol.4 山﨑 博人 教授

Hirohito Yamasaki

シクロデキストリンを用いた環境共生型材料の開発

オンリーワンを目指した研究を

先では、先端材料のフォトレジストに関する地域企業との共同研究による成果を述べました。しかし、設備等が大学等の研究機関に敵わない高専では、成果を張り合うことは難しいです。そのため、研究の進め方として、ナンバーワンではなく、オンリーワンを目指した独自性の高い研究が相応しいと感じました。そこで、私は、高専での研究活動の中で、オンリーワンに相応しい新しい環境材料を開発し、実用化による社会貢献をしたいと考えています。

シクロデキストリンについて

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図3.CyDの分子構造

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資料.CyDの包接作用のイメージ
http://www.cyclochem.com/cd/002.html

そんな折り、シクロデキストリン(CyD)と出会いました。CyDは微生物由来の酵素によってデンプンから生合成され、D-グルコピラノースがα-1,4-グリコシド結合した環状構造をもっています(図3)。CyDにおける最大の特徴は、環状構造の内側が有機物と馴染みやすい疎水性、外側が水と馴染みやすい親水性と、相反する性質を同時にもっていることです。このため、水中では油分や有機物など(ゲスト分子)を疎水性空洞に取り込む包接効果を発現します(資料)。この包接により不安定な中間体や化合物の安定化ができるので、食品・医薬品・化粧品など、多くの分野でCyDは利用されています。例えば、刺身を食べる時に食卓に登場するチューブわさび、これは、わさび成分をCyDに包接することで安定化し、長期保存を可能にしています。

現在の排水処理の抱える問題点

排水には工業排水や家庭排水などがありますが、これらの多量の排水を一括処理する手法として、活性汚泥法が用いられています。この手法では、国内の産業廃棄物の2~3割に相当する余剰汚泥と呼ばれる汚泥を、大量発生させることが問題視されています。余剰汚泥削減の一つの手法として、微生物が付着して生育できる含水ゲルタイプの微生物固定化担体の投入があり、実用化されています。この固定化担体の投入は、汚泥発生量の抑制効果のみならず、固定化担体を未投入の懸濁液よりも何十倍も槽内の微生物濃度を高めることができ、反応効率の向上や、処理施設のコンパクト化を実現します。こうした中、私は、CyDの包接能力に着眼したCyD含有球状含水ゲルによる新しい微生物固定化担体の開発に成功しました。

提案する新しい排水処理システム

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図4.排水処理システムのイメージ

CyD含有球状含水ゲル微生物固定化担体に、活性汚泥などの微生物を付着した際の排水処理システムのイメージを図4に示します。排水中にこの含水ゲルを投入すると、含水ゲル中のCyD成分が排水中の有機物を包接して含水ゲル内に濃縮します。次に、この濃縮された有機物を付着した微生物が分解除去します。これにより、CyDの空洞内は空となり、包接機能が回復します。再びCyD成分による濃縮と細菌による分解除去を繰り返すことができ、高効率の処理を行うことがかないます。

開発した微生物固定化担体の特徴

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写真.CyD含有球状含水ゲル

含水ゲルの母体成分には、化粧品やポリウレタンの原材料であるポリエチレングリコールを主成分とした光硬化性樹脂、あるいは、接着剤や洗濯のりの原材料であるポリビニルアルコール樹脂を選びました。そして、それぞれに高分子反応を介してCyD成分を含水ゲル中に導入し、平均直径約3〜4mm、含水率60%以上のCyD含有球状含水ゲル(写真)を開発しました。

CyD含有球状含水ゲルにフェノール分解菌を付着させた後、フェノール模擬排水を用いて分解試験を行いました。CyD成分を含有させることで1.6倍速くフェノールを処理でき、この分解試験の際に発生した余剰汚泥量は、1.5倍程度、抑制できました。

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図5.球状含水ゲル切片のFISHイメージ像
(共焦点顕微鏡:FLUOVIEW-FV10i,オリンパス(株))
上段:蛍光プローブEUB338により検出された全細菌
下段:位相差像

次に、FISH法(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)を用い、球状含水ゲル中での微生物の生育分布を共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察しました。図5の下段は含水ゲルの切片像です。これに励起光を当てたのが上段の像で、その蛍光部が微生物の存在箇所となります。CyD未含有の含水ゲルでは、極表面部のみに微生物が分布します。一方、CyD含有のそれでは、内部にまで微生物が存在しており、微生物への優れた生育環境を提供できていました。

今後の展開

CyD成分の導入によって、微生物固定化担体が高機能化したと言えます。この技術の製品化を目指した企業連合との共同研究が、2016年から始まりました。もしかすると、CyD含有微生物固定化担体を用いた製品が身近で見られるのも、そう遠くないかも知れません。

【次ページ】研究室の学生達と

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