独立行政法人国立高等専門学校機構 宇部工業高等専門学校

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目的別

vol.4 山﨑 博人 教授

Hirohito Yamasaki

古くて新しいフェノール樹脂を用いた先端材料の開発

フェノール樹脂とは?

フェノール樹脂は、1907年にベークランドによって発明され、ベークライトと命名されて工業化に至りました。現在この樹脂は、熱に強い性質(高耐熱性)を活かし、自動車の制動に欠かせないディスクブレーキのピストンシリンダーやブレーキパッド用樹脂として、あるいは電気・電子分野ではパソコンの頭脳に相当するCPU(中央処理装置)や半導体メモリーを熱などの外部環境から保護するための封止材として、私たちの身近で広く利用されています。さらに、この樹脂はアルカリ水溶液に溶解するといったポリマーの中では珍しい特性をもちます。この特性を活かし、光に反応して樹脂の溶解性を変化させて微細パターンを描画できる素材(フォトレジスト用樹脂)として、半導体集積回路やフラットパネルディスプレイの回路作成工程に欠かせない先端材料となっています。

研究の特徴

近年、エレクトロニクス製品、特に、スマートフォンやデジタルカメラ等の軽薄短小化、高機能化が急速に進んでいて、フレキシブル基板における益々のファインピッチ化が求められています。従来、フレキシブル配線基板は、線状高分子構造をもつアクリル系樹脂を成分としたフォトレジスト材が使用されていますが、この解像度は30~300µm程度と低いです。一方、半導体や液晶ディスプレイのエッチング用レジスト材として、フェノール類のクレゾールとホルムアルデヒドから重合されるノボラック樹脂が用いられています。このノボラック樹脂は架橋(3次元ネットワーク)構造をもち、その解像度は1~10µmと高いですが、膜質が脆く、柔軟性に欠き、フレキシブル基板に適しません。そこで、私は、企業との共同研究の中で、ホルムアルデヒドに代わって、自由連結鎖をもつジアルデヒド成分を組み込むことによって、柔軟性を付与した新しいフォトレジスト材料の開発に成功しました(図1)。

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図1.分子構造のイメージ

研究の具体的内容

ジアルデヒド成分としては、スクシンアルデヒド(Suc,アルキレン基(-CH2-)数x=2)、グルタルアルデヒド(Glu,x=3)、そしてアジポアルデヒド(Adp,x=4)の3種をそれぞれ用い、ノボラック樹脂を合成しました。そして、柔らかいポリイミドフィルム上に5µm厚の薄膜を作製し、これを折り曲げ、折り曲げ箇所の樹脂の飛散状態から柔軟性を評価しました。ホルムアルデヒド樹脂は砕け散り、粉々に飛散しました。ところが、ジアルデヒド成分を導入した場合、柔軟性が付与され、その程度は x=2 << x=3&4 となりました(図2)。そして、柔軟性を付与された全ての樹脂は、3µm以下の描画能を維持していることを確認しました。

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図2.折り曲げ試験の結果一覧

今後の展開など

こうして柔軟性と優れた描画能をもつフォトレジスト材の開発に兆しが見えてきました。今後は、分子設計時にアイディアをいっそう盛り込み、更に柔軟性を高め、実用化の適うフォトレジスト用樹脂の開発を目指します。この一連の研究成果により、第39回合成樹脂工業協会学奨励賞を受賞しました。

【次ページ】シクロデキストリンを用いた環境共生型材料の開発

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