vol.2 久保田 良輔
制御情報工学科 教授
学位 博士(情報工学)
専門分野 計算知能 パターン認識
知的情報処理技術の可能性
賢いコンピュータを創る
現在の主流であるノイマン型コンピュータは、開発されて半世紀を経て、その性能も飛躍的に向上し、私たちの生活において必要不可欠と言っても過言ではない程に浸透しています。20世紀においては、コンピュータは様々な製品を大量生産する上での自動化に大きく貢献し、設計から製造に至るまで幅広い分野で用いられてきました。また、現在でも様々な行程をさらに自動化するため、コンピュータを駆使したシステムの開発や設計が進められています。一方で、近年では、スマートフォンやタブレットに代表される携帯用モバイルコンピュータの普及も著しく、21世紀の私たちの生活の基盤となりつつあります。
コンピュータの開発においては、その電子的な部品や素子から構成される回路(ハードウェア)だけでなく、それらの回路を動作させるためのプログラム(ソフトウェア)も大切な役割を持っています。特に、ソフトウェアの開発は、製造の自動化だけではなく、あらゆる製品の使いやすさを向上させる上でも重要であり、様々な情報技術が駆使されています。
しかし、多くの設備や製品には、さらなる高機能化・高性能化が求められており、それらを構成するシステムも複雑化の一途を辿っています。また、複雑なシステムを完全に自動化することは技術的にもまだまだ困難な部分が多く、ソフトウェアの開発はこれらの困難を解決するための重要な糸口になると私は考えています。
私の研究室では、複雑なシステムを賢く制御できるコンピュータを創るために、そのソフトウェアに関する研究に取り組んでいます。
計算知能とは
私の研究室では、賢いコンピュータを創ることを目的として、計算知能(Computational Intelligence)に焦点を当てて研究に取り組んでいます。計算知能とは、生体の学習や進化、群れ行動、あいまいさを許容した情報処理などにヒントを得たソフトウェア(アルゴリズム)の開発が行われている研究分野で、人工知能の分野に属しています。特に、私の研究室では、生体の進化や群れ行動に基づくアルゴリズムを重点的に扱っており、遺伝的アルゴリズムや粒子群最適化法の性能改善に関する研究を行っています。また、これらの工学的な応用にも取り組んでおり、画像処理やパターン認識などへの応用を通して、実社会における有効性の検証も行っています。応用に関する研究としては、近年では主に、様々な制約を満たす看護師勤務表の自動作成問題や、人工衛星によって取得された画像を用いた土地被覆分類問題、自然画像に混入する様々な雑音の除去などに取り組んでいます。
研究との出会い
私は、大学で制御工学や情報技術について学びましたが、特に知的情報処理に興味があり、そのアルゴリズムについて研究してみようと思いました。大学4年次に研究室に配属され、私は指導教員と相談して、自己組織化マップと呼ばれるニューラルネットワークの一種について研究することにしました。研究を始めた当初は右も左もわからず、初めて目にする専門用語ばかりの英語の論文に打ちのめされたことを今でも覚えています。また、色々な方法について考えることは好きでしたが、プログラミングはあまり得意ではなかったので、大学時代に使った教科書を片手に、試行錯誤しながらプログラムを作成しました。指導教員や研究室の先輩のご指導もあり、初めて成果が得られた時は、言葉では言い表せないような感激があり、現在の私の研究活動の原動力になっています。
博士後期課程では、自らテーマを見出だし、解決すべき問題を設定することの難しさに直面しました。新しいことに挑戦してみようと思い、研究分野を変更しましたが、良いテーマをなかなか定めることができず、悩んだ時期もありました。しかし、就職後には、また新しい分野で研究を行う必要があったため、その際には博士後期課程で身に付けた問題設定能力が大いに役立ちました。今でも、テーマの分野にはあまりこだわらず、面白そうなことに意欲的に挑戦することにしています。
受験生へのメッセージ
制御情報工学科では、ロボットを自在に制御できる技術者の育成を目的として、情報通信技術を主に学びます。私の研究室では、その中でも特に情報技術を用いて、世の中の様々な問題を解決するために、計算知能分野において研究を行っています。
私の研究室では、学生と相談しながら、各学生に対して1つの独立したテーマを設定しています。また、テーマによっては、他の大学と共同で研究を進めています。特に、本科卒業後に進学を希望している学生については、在学中に国際会議や学会で学術発表を行うことを推奨しており、これまでにも多くの学生が国内外において、自身の研究成果を発表しています。
卒業研究においては、研究分野に関する様々な知識を深め、専門的な技術を磨くことも非常に大切ではありますが、私は、卒業研究を通して、設定された問題に対して、①従来の技術を調べる力、②問題を解決する新しい方法を考える力、③考えた方法を実際に具現化する力、④考えた方法の有効性を実証する力、⑤研究成果をまとめてわかりやすく伝える力を学生に身に付けて欲しいと考えています。この5つの項目は、どのような研究・製品開発においても求められる非常に大切なスキルであり、ぜひこれらの修得を目指して欲しいと思います。
詳細については、私の研究室のホームページをご覧ください。
現在までの経歴
2005年 | 九州工業大学大学院 博士後期課程 情報工学研究科 情報科学専攻 修了 |
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2006年 | 山口大学 文部科学省知的クラスター創成事業研究員 |
2008年 | 宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 助教 |
2012年 | 宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 准教授 |
2016年 | 宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 教授 |