独立行政法人国立高等専門学校機構 宇部工業高等専門学校

EnglishVietnamese
目的別

地域課題解決型PBL「地域教育」小野和紙プロジェクト3年間の取り組みを紹介します

NEWS

2022.06.15

地域課題解決型PBL「地域教育」において、宇部市小野地区の伝統工芸である「和紙」をテーマにした、令和元年から令和4年2月21日までの3年間にわたるプロジェクトを報告します。実際に何度も現地を訪問、地域の方々と交流しながら、体験から導いた課題解決活動に取り組みました。

地域課題解決型PBL(Problem/Project Based Learning)「地域教育」とは?

地域課題解決型PBL「地域教育」(以後、地域教育)は、2017年度から開講しているエンジニアリングデザイン能力醸成、課題発見能力育成および数多くのイノベーション創出を目的としたアクティブラーニング型の授業です。課題を与える(選択する)のではなく、自らが課題を発見するところから取り組み、提案に留まらず年間を通じて実践活動をすることで、今、社会が求めている「待ちではなく、自ら考え、提案、行動できる人材」の育成を目指しています。


小野和紙プロジェクトが立ち上がるまで

中山間地域の活性化をテーマに宇部市北部の小野地区を選定し、伝統工芸である和紙に焦点を絞って取り組むことを決定、和紙Boys・和紙Girlsを結成しました。
和紙Boysは、和紙作りの各工程を実際に体験、小野地区観光推進協議会文化伝承部会(以後、小野和紙伝承部会)の皆様と対話を重ねて自分たちの強みを活かせる取組を模索し、小野和紙の『伝承』における課題解決、和紙Girlsは、地旅ツアーの実践から小野和紙の『魅力発信』に取り組むこととし、小野和紙プロジェクトの活動を開始しました。

小野和紙プロジェクト(和紙Boys・和紙Girls)令和3年度メンバー

プロジェクト活動期間 チーム名 氏名(学科学年)
令和元年7月~令和4年2月 和紙Boys 安重 颯人(令和3年度制御情報工学科卒)
小松尾 真優(令和3年度制御情報工学科卒)
来嶋 紘知(令和3年度制御情報工学科卒)
令和元年7月~令和4年2月 和紙Girls 土井 佑香(令和2年度専攻科経営情報工学専攻修了)
逆瀬川 佑月(令和元年度物質工学科卒)
槿 優衣(平成28年度物質工学科卒)
令和3年4月~令和4年2月 和紙Girls※ 水野 愛美(経営情報学科5年・観光チーム兼務)
山本 小想(経営情報学科5年・観光チーム兼務)

小野和紙の課題の発見

和紙作りは、楮(こうぞ)などの材料の栽培/収穫後、紙漉きが出来るまでに多くの準備工程が必要です。その中でも「ビーター」と呼ばれる機械を用いた、材料の繊維を細かくする工程は非常に重要な工程になります。しかし、小野地区には「ビーター」がなく、徳地など近隣の和紙の産地の機械を借りて和紙作りをしている現状があり、継承・生産の大きな妨げとなっていました。また、和紙を使った特産品も少ない状況でした。
そこで和紙Boysは、制御情報工学科での学びやロボット研究部での経験を活かして「自分たちで、ビーターを自作できないか」、和紙Girlsは、「紙漉き体験を盛り込んだ地旅ツアーの催行した経験から、小野和紙を活用した商品を開発して魅力発信ができないか」と考え、課題解決を目指したプロジェクトが始まりました。


ビーターの3Dモデル製作

令和元年12月4日午前、山口市徳地の和紙工房を訪問し、ビーターの実物を確認しました。実物を見ることで、自分たちで製作が可能なことを確信できたため、後日図面を書き起こし、3Dプリンターで完成イメージを製作しました。

ビーターの設計図

ビーターの3Dモデル



楮(こうぞ)の収穫体験

収穫した楮を運ぶ様子

令和元年12月4日の午後は楮の伐採から運搬までの収穫作業を体験しました。重労働で、暖かい日だったため汗だくになりました。


試作機の製作・稼働

令和2年9月12日、旧小野中学校内の和紙工房において前年度に3Dモデルを制作していた「ビーター」の試作機を稼働させました。
令和2年度は、年度初めから新型コロナウイルス感染拡大に伴うオンライン授業のみの期間が続き、対面での打ち合わせが非常に難しい時期でした。しかし、電気系統・機械系統の両面から設計を完了させ、9月に試作機を製作できる状況にこぎつけました。製作は9月12日早朝から開始し、約5時間かけて完成させ、勢いよくビーターが稼働し始めた瞬間には、現場で参加していた一同が歓声をあげていました。

試作機の最終調整

試作機が無事稼働、繊維のほぐれ具合を確認


楮の皮剥ぎ

令和2年12月20日、旧小野中学校内の和紙工房において和紙の材料となる楮の皮剥ぎが行われ、小野プロジェクトの学生5名と他チームに所属する学生2名の計7名が参加しました。
この作業は、早朝より2つの巨釜で蒸された135㎏の楮を熱いうちに剥いでいくものです。楮は、蒸すことで幹から皮が剥がれやすくなるため、冷めないうちに作業する必要があります。当日は小野プロジェクトに参加していない学生の応援参加もあり、2時間黙々と集中して1本1本丁寧に皮を剝きました。

大きな釜を窯を使って蒸される楮

皮剥ぎ作業の様子

ビーター完成

プロジェクト最終年となる令和3年度は、実際に小野地区に引き渡す実機の製作に取り組みました。そして、令和3年8月21日、前年度に設計、試作、動作確認を終えていたビーターの実機を現地で組み立て完了させ、正常に稼働し繊維をほぐす能力を確認しました。
その後、冬の紙漉きシーズンを迎える直前の11月28日に機器の調整、稼働条件(シーケンス)の適正化を行い、より叩解の能力を上げることができました。最後に操作マニュアルの作成に取り組み、令和4年2月21日に開催された「令和3年度地域教育成果報告会」で、小野和紙伝承部会の代表者に手渡しました。令和4年3月のメンバー全員が卒業する前に小野和紙伝承部会の皆様でビーターを稼働させる環境を作ることができ、目標を無事達成しました。

ビーターが完成し記念撮影
(左より来嶋さん、小松尾さん、安重さん)

楮(こうぞ)の繊維がほぐれていることを確認


和紙Girlsによる和紙を使った商品の開発

和紙Girlsは、和紙の魅力/付加価値創出として新商品の開発に取り組み、ランプシェード、ブックカバー、フォトスタンド、御朱印帳などを企画・デザインして制作しました。開発した商品は、地域の方と共に新商品発表会を開催して紹介する機会もいただきました。
特に、最後の1年は和紙Girls全員が宇部高専卒業生となっていましたが、オンラインで意見を交わしながら、観光チームとして受講していた学生(和紙Girls※)も交え、精力的に取り組んでいる姿が印象的でした。
小野和紙プロジェクトは令和3年度で一旦終了しましたが、今年度は昨年度から和紙Girlsの活動に参加をしている和紙Girls※が引き続き小野和紙の魅力発信に取り組んでいきます。

カレンダー、アクセサリー/キースタンド、モビール


ブックカバー・フォトスタンド・ピアス・コサージュ

御朱印帳


功労表彰

3年間、地域教育に継続的かつ精力的に取り組み、ビーターを完成させた和紙Boysの3名を功労表彰しました。地域教育を開始して初の功労表彰です。和紙Boysのメンバーは、1年次より5年間継続して地域教育を履修していたこと、和紙作りの一連の作業を体験する中で、自分たちで漉いた和紙で表彰状を作る機会があったことから、今回の表彰が実現しました。

自らが漉いた和紙で制作した功労表彰状


小野地区、小野和紙伝承部会の皆様、ありがとうございました

小野地区、とりわけ小野和紙伝承部会の皆様には、3年間の長きにわたり地域教育「小野和紙プロジェクト」の取組へご支援・ご協力くださいましたこと、厚く御礼申し上げます。地域の皆様に支えられながら学生は成長していきます。これからも、宇部高専の地域教育に対するご理解・ご協力をよろしくお願いいたします。



このページを印刷する

ページ上部へ